玉ねぎを切り始めてすぐ、隣の人が「もう目が痛い」と言った。
「私、始まる前からちょっと痛かったです」
「それは早すぎない?」
笑ったら、やっと包丁の握り方を思い出した。四十代になって料理教室に申し込むとは思わなかった。先生が「お二人で一つの鍋を使ってください」と言ったときは、来る日を間違えた気さえした。
隣の人は、まな板からこぼれそうな玉ねぎを包丁の腹で寄せた。
「私、真理です。そっちは、もう半分切れました?」
「美紀です。まだ三分の一です」
「よかった。私もです」
料理教室に一人で参加した日の帰り道
煮込み時間に、真理さんは「土曜の朝だったら来なかった」と言った。私は募集ページの「午後二時」を見てから、ようやく申し込んだ話をした。
「朝から何かやる人、すごいよね」
その言い方があまりにも真剣だったので、また笑った。
駅までの道は同じだった。改札の手前で、真理さんがバッグの中を探し始めた。切符かスマホを探しているのだと思って待っていたら、次の教室の案内を出した。
「次も来る?」
紙の端に、油が一滴しみていた。
「午後なら」
そう答えると、真理さんは紙を開き直した。次も、午後二時だった。


